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超ディストピアな監視社会が舞台のドラマ『マルクト』が“不穏の金太郎飴”だった。思想監視チップ、頭に電極をつけた老婆、射殺の練習用囚人──どこ切っても嫌な汁が出てくる。制作はホラー作家・梨×株式会社闇の邪悪タッグ

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自分が突然「変な場所に迷い込んだ」みたいな感覚って、ある。デジャヴ? ジャメヴ? ちょっと違うんだけど、それに近いような感覚。

そういう、「変な場所に繋がった!」っていう感覚を使った番組が、現在進行形で放送されている。それが『マルクト情報テレビ』と、それに連動したショートドラマ『マルクト 〜あなた、誰ですか?〜』だ。

夜中にボケっとテレビ付けていたら、なんだかいつのまにか変な番組が始まっている。一見なんか普通の情報番組に見えなくもなくて、「なんじゃこれ?」と思って見ていると、なんだかずっとヤバい感じのことを言っている。

本作をかる~く説明すると、要するに「激ヤバ監視国家の公共放送番組」(を模したフェイク番組)です。これが公共の電波でテレビ放送されている。

で、この「激ヤバ監視国家」が実際にどれくらいヤバい国家なのかというと、

・全国民にチップを埋め込み反逆思想を常時監視
・国家への忠誠心を指数化して階級社会を形成
・足りない労働人口はクローンで確保。クローンの元になる優秀な人間は外部から拉致
・国の未来を担う子供には幼少期から犯罪者を処刑させたりして英才教育
・優良国民の頭には愉快な電極を付けてハッピーになる電磁波を注ぎ込む

どこぞのヒゲのおじさんたちも裸足で逃げ出しそうな真正マジヤバなディストピアです。どんな歴史があったらこんなトンデモ国家ができるんだ。こんな社会の国営放送番組が夜中のテレビから突然流れ出したりしたら、これはもうちょっとしたホラーです。

『マルクト』レビュー・評価・感想:超ディストピアな監視社会描く“不穏の金太郎飴”ドラマ。各話1分ちょっとで嫌な気持ちになれてお得_001

もちろんこれは確信犯的な番組。なにせこれ作ってるのって『行方不明展』『かわいそ笑』などを制作・執筆したホラー作家・梨さん&株式会社闇とかいう邪悪なタッグです。
なんだこのキムチにタバスコかけて喰うみたいな組み合わせ。

そういう約束された不穏の話なので、まあ案の定じんわり画面の向こうから嫌な波動を流し込んできます。嫌な波動がゆんゆん漂ってくるんですが、「超こわい!」といった話でもないので、その点はホラー苦手な人でもご安心を。じんわり嫌な気持ちになるだけです。

ということで、この記事では致命的なネタバレは踏まないようにしつつ、このふたつの作品を紹介する。

ちなみに本記事の執筆時点で『マルクト情報テレビ』は全4話中3話まで公開されていて、次回の放送予定が6月14日。ローカル局であるMBSでの配信番組ですが、TVerでの見逃し配信もやってるので、そちらでも視聴可能。

『マルクト 〜あなた、誰ですか?〜』は、ショートドラマアプリ「BUMP」上で全話配信中。さらに、1〜8話を1本にまとめた「一気見動画」が6月6日(金)より無料公開されているので、TVerでの配信とあわせてチェック必須です。

※この記事は『マルクト』の魅力をもっと知ってもらいたい株式会社闇さんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。

執筆/恵那
編集/anymo


不穏マシマシたっぷり濃いめ不穏追加。どこ齧っても嫌な味がする「こんな社会は嫌だ」全部乗せの情報番組

『マルクト』の物語を構成するのは、現在テレビで放送されている『マルクト情報テレビ』と、そのウラ側で起こっていたストーリーを描いたドラマ『マルクト 〜あなた、誰ですか?〜』のふたつ。

ただ『マルクト情報テレビ』をもう見てる人なら分かると思うんですが、これって情報番組を見た後にドラマを見ると「一見ギリギリ普通に見えたあの怪しいテレビ番組のウラでは、実はこんなにヤベーことが起こっていたんだぜ!」みたいなことが分かる、という話では全然ない。

オモテ側の話であるはずの『マルクト情報テレビ』の時点で、もう最初っからだいぶヤベーんです。黒黒のまっくろくろ。

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『マルクト情報テレビ』司会の国崎さん。感情制御が上手そう。笑顔が怖い
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『マルクト情報テレビ』アナウンサーの中野さん。笑顔がすてき。目が笑って無くて怖い

喩えるなら、どこ切っても嫌な汁が出てくる金太郎飴みたいな話というか……。

なんなら『マルクト情報テレビ』第2話の時点でもうすでに「これから練習用囚人の射殺訓練をします」とか真顔で言いだします。「健全に育つ模範学生たち」じゃねーんだわ。それ、紛争地帯とかで少年兵に洗脳教育するときにやるやつだから。

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統治官のスズキさん。このあとのドラマでも度々出てくるけど、本作で一番の怪演だと思う

『マルクト』ではとにかくこんな感じの不穏……というかもう不穏ってレベルじゃなくおかしいだろ!みたいなことがばんばか起こる。

「不穏」というと、「何かが起こりそうだけど今のところまだ起ってはいない」ような、そういう不安定で危ない感じのイメージがあるけど、『マルクト』で起こってるのはそうじゃないのだ。

だって一般的な倫理観があれば、青少年に囚人を銃殺させたり、労働用にクローン人間を生産しまくったり、全国民に思考探知チップ埋め込んでる国がまともなわけないのはすぐわかるじゃないですか。

何もかも決定的におかしくなっていて、こんなの絶対に間違ってるだろという気がするんだけど、全部がものすごく大真面目に行われてて、誰も疑問を差しはさんでいない。

その中で自分だけが「えっ、これおかしくない? おかしいよね!?」と騒いでるようなぞわぞわした感覚があって、その齟齬にものすご~く嫌な感じがする。間違ってるのは世界のはずなのに、なぜか自分の方が異物にされてしまっているような。

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乳幼児に叛逆思想を感知するチップを埋め込む国がディストピアじゃないわけないだろ!

冒頭でもちょっと書いたけど、これは『マルクト情報テレビ』っていう番組が、ふだん何気なく見ているテレビを通して、見ている人の日常空間に直接ダイレクトアタックしてくることとも密接に関わっている。

自分が良く知っているはずのモノだったり常識だったりが、突然全く知らないものにすり替わっていることで、その落差にものすごくゾワゾワしちゃうのだ。特にテレビなんて意識的にみるわけでもなく、ただなんとなく点けてるだけ、みたいな人も多いようなものなので、そこから急に異物が入り込んでくるとゾクリとする。

実はこの点には番組の発表時に原案・監修を務めた梨さんからもコメントが発表されていて、

普段見ているものが、それこそ普段何気なくなんか見流している、聞き流しているCMであるとか、バラエティ番組、情報番組とかが突然自分が全く知らないものに変わるっていう恐怖…「異化効果としての恐怖」という言い方がいいかもしれません。

そういう「エンタメとしての怖さ」というものをかなり突き詰めて作っていますので、ホラーが苦手な方でも、ショートドラマに縁がなかった人にも見てもらいたいです。

ちょっと難しい話になるんですが、「異化」というのはもともと文学の用語。慣れ親しんだ日常の存在を非日常的なものとして捉えなおすことで、その存在を再発見することを目指したものです。

ここでは、「マルクト」という激ヤバ国の情報番組というテイをとることで、普段見慣れているはずのテレビ番組を、そのまま不気味で得体のしれないものに変えているわけです。

こうした「異化効果としての恐怖」は、すごく「怖い」ものではないけど、この違和感が残り続ける間はずっと「イヤ~な感じ」が漂い続ける。

単に「不穏」なのかと言われると違う気もするのだけど、こういう感情を宙吊りにされるような嫌さはやっぱり「不穏」な感覚に近い。『マルクト』にはそういった「イヤ~な感じ」が、とにかくたくさん敷き詰められているのだ。

その意味だと、『マルクト情報テレビ』に出てくる人たちがみんな笑顔なのも、見た目の印象に反してかなり不気味な感じがする。ディストピアものって、「市民、幸福は義務です」みたいなとこあるよね。

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なにもかもがあまりにディストピア過ぎる。というがディストピア「あるある」すぎて逆に楽しくなってきた!

『マルクト情報テレビ』でさんざん醸成された「マジヤバ国家マルクト、マジでヤバくない?」という空気感をそのままドラマの形に仕立てたのが「BUMP」で配信されているショートドラマ『マルクト 〜あなた、誰ですか?〜』だ。

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まひるの想い人である先輩・陸。でも気軽に女子の腕掴むようなやつ、たぶんろくな奴じゃないから用心したほうがいいぞ!

こちらでは『マルクト情報テレビ』にも登場した大学生・朝比奈まひるが主人公。ドラマの物語をざっくりと説明すると、まひるがほのかに思いを寄せていた大学の先輩がある日突然行方不明になり、帰ってきたと思ったら性格が一変

先輩を案じるまひるは、彼の持ち物の中に謎のマークが書かれた謎の地図を発見。それに従って調査を進めているうちに、ふしぎの国へと導かれてしまったのでありました。

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この手の「決まった場所で呪文を唱える」みたいなのは怪談とか都市伝説っぽい感じも

導かれた先がトンデモ監視国家だったことを除けば、まあだいたい『不思議の国のアリス』みたいな話ですね!

スマートフォン向けのアプリ上で展開されていることもあって、各話最大でも3分程度、多くの話は1分から1分半程度という非常に短い時間に収められているドラマなのですが、「よくもまあ、こんな短い時間にこれだけ詰め込んだな」と思えるくらいたくさんのことが起きます。主に嫌なことです。というか、嫌なことしか起こりません。

オモテ側の『マルクト情報テレビ』でアレなので、ウラ側にあたるこっちも大概なのだが、ただ出てくる設定のディストピアしぐさがどれもこれも濃ゆすぎて、自分の場合は正直怖いとかじゃない感情の方が爆発してました。
というかケレン味が強すぎて、令和の『TRICK』みすら感じていました。

『マルクト情報テレビ』からして「指導者様」を讃える謎のポーズとか、人体に埋め込む監視チップをキャラクター化した「ノードくん」とか、だいぶケレン味の強い攻め方をしてたんですが、こっちはそれを上回る勢いで最悪ディストピアのカラメマシマシといった趣きです。

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『マルクト情報テレビ』に登場する「ノードくん」。すなおにキモい。なんでこれが国民的人気キャラなんだ

たとえばこれは、マルクトに迷い込んだまひるが元の世界に戻るための方法を探すべく、とある協力者と共にクオリア指数(国家への忠誠指数)の高い上級市民が暮らす高級住宅に行ったシーンで、頭に電極を付けて締まりのないにやけ顔のおばさんが登場するシーン。

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いやこれはいろいろアカンやつだろ!

衝撃を受ける筆者を尻目に、まひるに同行していた協力者はそれのことをアガぺ【※】と呼び、「いいなあ、アレつけるとうんと気持ちいいんだってさ」とぽつり。えっこれ、脳に電極刺して快楽中枢刺激するやつと同じってこと!?

※アガペ:
多分アガぺー、「神の愛」の意

そのシーンの直前にも小さな子どもが「はやく固形食糧食べたーい」と無邪気に言っていたり、随所にザ・ディストピア標語みたいな「疑問は毒、信頼は薬」が書かれていたり、とにかくディストピアと言えばこれっしょ!みたいなものがめっちゃ出てくる。

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そう、このドラマ、最悪ディストピアの万国博覧会みたいになってるのだ。

このほかのお気に入りだと、ディストピア社会では定番の「死ぬより辛い刑罰」。

まひると同じように現実世界から連れてこられた人が反抗的な態度を取るので、身体の感覚を超拡大する「感覚刑」という罰を受けるのだが、見た瞬間「感度3000倍の刑だ!」と叫んでしまった。ちなみに、これは実際には聴覚が研ぎ澄まされて大きな音に苦しんでしまうみたいな刑だったので、たぶん普通に辛い。

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こんなもん普通にブン殴ったほうが3000倍早いに決まっているのだが、そういうことではない。ヤバディストピアには、こういうテクノロジカルな刑罰が必要なのです。

テクニカルポイントが高めだと思ったのが、『マルクト情報テレビ』にもあった、次世代クローンのオリジナル選定の投票シーン。他の人が「〇〇の労働に向いてそう」な評価だったのに、まひるだけが「美貌と個人の恋愛を配信する浅はかさが魅力」というあんまりな評価をされています。

その直前に、新クローン遺伝子の投票で「あなたの息子さんの将来の妻の顔が決まるかも」と言われている点を重ねると、クローンのことを本気で「子どもを産ませる奴隷」程度にしか考えていない最悪すぎる思考が垣間見えます。

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怠惰な生活と浅はかな思考、恋愛に陶酔する向上心のなさが評価されてクローン候補に選出。ほか3人と比べて評価がひどすぎる

いたるところに仕込まれた強すぎるディストピアしぐさは、最初に書いたようにかなりのケレン味になっている一方で、ディストピア的な「イヤ~な感じ」を誰でもわかりやすく楽しめるようにもしてくれている。

とにかくどのシーンでもヤバすぎディストピアの空気が漂っているので、物語のどこを取っても「超分かりやすくヤバイ国」というのが強く印象付けられる。各話1分少々という短い時間の中でも、最後までたっぷり「イヤ~な感じ」が詰まっているのだ。

物語の中で衝撃的な展開などは起きない代わりに、金太郎飴のようにどこを切っても「イヤ~な感じ」がべろんべろんと続く。

ディストピア的な最悪要素を誰でも楽しめる(?)「あるある」みたいな形に戯画化して描いたものが、本作のディストピア世界なのかもと思ったりしました。そうした意味で、本作はかなり初心者向けディストピア入門みたいな話なのかもしれません。ディストピア入門ってなんだ。

ちなみに、この『マルクト』の物語は、映像としてはテレビ番組とこのドラマで完結しているものの、実はX(旧Twitter)でも情報発信がされています。主に映像番組の補完的なかたちで世界観の設定などの情報が出ているようです。

 

こっちはこっちでなかなかに不穏な空気を醸しているので、あわせて見てみることでより本作のイヤ~な空気を楽しめそう。それではみなさんも、ぜひ『マルクト』をお楽しみください。

指導者様に感謝を。

ライター
ル・グィンの小説とホラー映画を愛する半人前ライター。「ジルオール」に性癖を破壊され、「CivilizationⅥ」に生活を破壊されて育つ。熱いパッションの創作物を吸って生きながらえています。正気です。

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